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2014年4月19日 (土)

ReTeam / ReUnison #バトルの時間 SS

同作品のSS二作目です。主題が何なのかイマイチ自分でもわからないものになってしまいました。主人公が先生なのは確かですが。
台詞を先に書いて描写を後から加える手法で書いたので、不整合や未推敲部分が多いかと思います。
また、アルメリアの台詞全般、自信がありません。可能なら修正の指摘、お願いします。

説明が必要な場面があるように思います。後程別記事で後書きを。
それではどうぞ。



宇宙人の侵略から向こう、教師として生徒を学びの道で、指揮官として生徒を戦場で導く生活を続けてきて、どれだけの時が過ぎただろう。

これまでこちらの戦力を転用する形でしか攻撃を仕掛けてこなかった敵勢力が、直接的な戦力を投入。これまでの物量戦に火力戦が加わり、歩兵戦の差中に対艦戦をさせられるかのような、言ってみれば無茶振りの連続。
火力について、大は小を兼ねない。こと、私達の状況では。私達の戦いは救出戦でもある。殲滅戦じゃない。

IFS001と呼称される宇宙人の兵器は、防衛ラインと無関係に出没していた。敵の狙いが私達の資源であるところの「エナジスト」であることがかろうじて判明していたため、ある程度の予測はできていたものの、そこに分け隔てなく戦力を投じる事ができるほど、私達の戦力は潤沢ではなかった。

私と生徒たちの戦場も、危険と予測される場所にある。近隣で数回の対IFS戦闘があったものの、幸か不幸かここでは遭遇はまだない。
ただし気掛かりな事に、IFS001は戦闘を重ねる毎に能力が強化されているという。今までが安泰であることは、逆に危険になりかねないのだ。

普及型アンドロイドの制圧を主任務とするこのチームは、敵の強化に伴い実力を上げてきた。今日も私の生徒たちは、エリア内に侵攻する敵兵の無力化の任務に従事していた。


「アルメリア、ターゲットB5を無力化。ジニア、ベクター0235に速度200で進撃、ローズ、ベクター0300に注意を払いつつ前進、アンシャンテ、ジニアの右手のフィールドの敵に注意」
『了解』

生徒たちの声が揃う。慣れた任務でも油断はない。

「ターゲットB5ターミネート。敵は見えんの」
「アルメリアさん、前方800。茂みの中です」
「ありゃ、すまんデュボネ、データ飛ばして…って速っ!衝撃波出ちょる!追いつけん!」

アルメリアは宇宙人の敵対行動の開始当初、潜入作戦のために最適化された、当時最新の装備を誇った近接戦のエキスパート。当時の技術では敵勢力の洗脳に抗えず、長く敵の配下にあったところを、彼女と同行した上官の作戦で帰還を果たした。以降、一風変わった言葉と確実な一撃でチームで存在感を示している。

「アタシが止める。デュボネ、当たんなくていいから前進止めらんないかな」

チームリーダーのアンシャンテは、陽気な性格だが多様な任務をこなす突撃兵としての経歴を併せ持つ。長く宇宙人側・学園側のいずれにも属さず一人で戦い抜いてきた凄腕だが、ライバルたる生徒がある先生の生徒に収まったのと時をほぼ同じくして、私の元にやってきた。

一方のデュボネは中距離の狙撃や威嚇射撃で戦局を導く、チームの目でありマークスマンだ。元々とある国の王族近衛として従事するために生まれた存在だが、実戦投入前に学園にやってきたので軍属としてのキャリアを感じさせない。
むしろ、宇宙人により祖国が壊滅したことから、普通の生徒よりもの悲しい雰囲気を纏っている。普段はおとなしい少女だ。

「やってみます。5射で動きが変わらなければ誰かサポートを」
「わたくしが入りましょう、アンシャンテ。ローズ、早くその敵を片付けて弾道計算を」

口調に気高さを浮かばせる彼女はジニア。アンドロイドの王を名乗る姉妹を持つ、自らも誇り高い貴族としての立ち振る舞いを常に忘れない騎士だ。彼女の姉妹は汎用性の高い外骨格型の武装を共通の仕様としている。気高い彼女の背中で紳士的に振る舞う彼女の鎧は「背中の御方」の名で親しまれている。

「もう済んでら!デュボネ、いつでもいいぜ」

荒い口調の彼女はジニアの妹、ローズ。気性の荒さでは学園屈指、近接戦を好みその踏み込みと手の早さから姉と対照的に扱われがちだが、巧みな心理戦で状況を構築する策士であることを、近しい者はよく知っている。優秀なフォワードだ。彼女の意図を忠実になぞる真紅の鎧を纏う。

「了解、行きます!」

美しい装飾が施されたライフルを、副腕のものを含め5丁。スタンディングのまま綺麗に命中させるデュボネ。しかし、目標の様子がおかしい。

「…よしよし転がった…ってアームデバイスパージしやがった!」
「すみません…対象850に減速、0055に転舵です」

汎用級の敵が逃げに転じた事は今までにない。ざわついた感覚が言葉を詰まらせる。

「まだですわ!この距離なら…ストームランス起動!」
「…待ってジニア!何かいる!」

ジニアの必殺技・ストームランスの踏み込みは、軽く音速を超える。彼女の姿が周囲の空気に歪みを作ったその瞬間。

「ターゲット沈黙…えっ」

突然の閃光。前方のエネルギー移動値の桁が跳ね上がる。ジニアの姿が影に転じ、やがて光に呑まれた。

「ちょっ…ジニア!ジニア!!シグナルロスト…アルメリア、ジニア助けて!アタシが援護射撃する!デュボネ、何が見えてる!?」
「…前方800に敵確認…IFS001です…」

招かれざる客が、いよいよこの戦場にも。しかもいきなりユニットを一人ロスト、ここは皆を信じる判断しか策がない。

「…各個判断で離脱を。周辺の状況に注意して」
「ちっくしょうめ…!」
「ローズ、熱くなっちゃいかんちゃ!ジニア、うちがわかるけ?」
「あ…大丈夫…外殻は動かせませんが…」
「はようパージし。…ガイアアックス、時間稼ぎを…でりゃぁぁぁ!!」

『背中の御方』は咄嗟に砲撃に背を向けていた。主を守ったもののその姿の大半を焼かれ、連接フレームが剥き出しになっている。ところどころ、溶解して朱く光っているのが見える。ジニアが動けるのは奇跡的だ。
アルメリアが咄嗟に得物である大斧・ガイアアックスΩを敵の頭部に投げつけた。連接部の結合を広げさらに大きさを増した斧が、相手を斬り裂き衝撃で艦首を持ち上げる。しかし、敵のエナジーステータスに乱れはない。

「砲身が上向いた!今のうちに二人とも拾う!」
「ローズ止まって!ヤツが反応した!」

センサーを赤く染めて、IFSが艦首を下げる。今、次弾を撃たれたら…

「私が注意を引きつけます!マルチショット、リミットカット!」

崖上で銃を展開していたデュボネのライフルから、アサルトライフルもかくやの密度で弾丸が放たれた。IFSのセンサー部に対甲弾頭の雨が降り注ぐが、直前で稲妻に打たれ蒸発していく。強力なシールドだ。

「アタシも!フリーズバレット、少しでいい、時間作れ…!」

ダメージを与えられなかったデュボネに代わり、アンシャンテが射撃姿勢を取るが…
デュボネの狙い通り、IFSの『注意』は彼女を向いてしまった。前方のエナジーステータスが跳ね上がる。

「…!粒子砲の出力が想定外です!デュボネ!そこから飛んで!巻き込まれる!」
「しかし先生!」

崖の高さは100m程だろうか、落ち着いて飛べば彼女なら軽微な損傷だろう。しかし、彼女は下にいる三人を気にしている。

「時間が!早く!」

叫ぶも遅く、IFSの砲撃が、無慈悲にもデュボネに向かって放たれた。

「きゃぁッ!」

背後の崖のさらに上へと回避を試みた彼女を、砲撃が崖ごと撃ち抜く。砕けた崖の欠片の岩とともに落下する、両脚を失った彼女の姿。
血の気がひいていく。我が身を引き裂かれたような感覚。

「デュボネーっ!」

気がつくと絶叫していた。周囲の岩を冷静に撃ち落とし、せめてデュボネの安全な落下状態を確保しようとするアンシャンテ。彼女の背後にも3射目のチャージを示すサインが出ていた。気づいてもアンシャンテは撃つのをやめない。
何も考えられない。頑張ってくれているアンシャンテにも声をかけられない。
言葉にならない終焉の意識に頭の中が染まった。その時。

「えっ、今何か光っ…」

アンシャンテの視界に一条の光線が走った。次の瞬間、IFSの艦首から艦尾まで、大径の穴が空く。

「IFS001の動力炉反応、停止」

指揮通信艦のクルーが告げる。重力制御系への動力供給を断たれた巨体が、ゆっくりと大地に沈む。

「なんなんだ今の…」

2人を回収し撤収しつつ、残骸と化したIFSを見て息を飲むローズ。
一方で、かろうじて機能した副腕の衝撃吸収システムに救われたものの、全身を打ち脚部の大半を失ったデュボネを前に、私は自失気味になっていた。アンシャンテに背中を叩かれ、かろうじて我に返る。

「…いけない。下肢の循環レベルを極力落とさないと」
「アタシがやる。落ち着いてデュボネ、これでも慣れてるから」

こんな状態を目の当たりにしても、アンシャンテは冷静だ。もはや使い物にならない状態の私と違って。後で知った事だが、過去の彼女にとって、このような事は日常茶飯事だったのだそうだ。救えなかった命もたくさんあったと。

「すみま…せん…私の火力不足で…」
「違うって!あの距離あの速度で当てられるだけでも凄いじゃん!それに…IFSには…」

この状態で言葉を発する事ができる。デュボネのポテンシャルの高さは疑うべくもない。それは私も、百戦錬磨のチームリーダーであるアンシャンテも理解している。しかし。
目の前に発生した絶対的な能力差に、私は虚無感を、アンシャンテは悔しさを浮かべた。
応急処置を済ませた私達に、機を待ったかのように声がかかる。

「既存火力での対応は難しいです。それこそ複数チームでないと」

よく知った声だ。自分の頬を二三度叩き、気持ちを切り替える。

「…さっきの『砲撃』は、あなたの支援ですか、トリフェーン」
「はい。IFSの粒子反応が出ていたので、急ぎ参りましたが、先生のチームに被害が出たようで、残念です」

冷静な口調だが、感情が滲む。社交辞令ではないようだ。
彼女の名はトリフェーン。今回の一連の戦いに際し、人類が投入した「プリンセスシリーズ」と称される3人のアンドロイドのひとりで、様々な先生方の配下での修練の後、レジェンドと称される突出した力を得るに至った優秀な戦士だ。その戦闘力は絶対的と言っていい。今の正式なモデルコードはトリフェーンL+となる。

「…レジェンドだ…」
「初めて見るっちゃ」
「ごめんなさい、私にあるのは力だけ。救助要請は済んでいるけれど、私では負傷した仲間を助けられない」

悲壮感を感じさせるも、周囲の言葉に気が向いていないようにも見えた。
アンシャンテがわずかな苛立ちをたたえた口調で言う。

「それはうちらがなんとかするから。ありがとう。助かった」
「今回の件でここまでかもしれませんが、このエリアの担当者として私からも。ありがとうございます」
「当然の事です。先生、ちょっとエリア担当の件でお話を承っています。…救助機到着ですね、機内でお話の時間を頂きたいのですが」

トリフェーンは私の礼には応えたが、アンシャンテの言葉には応えなかった。本音を言うなら、私もそれどころではなかったのだが、任務の用件とあっては応じる他ない。

「急を要しますか。一室用意させましょう」


全員の収容が完了し、チームの全員がIFSの使う未知の粒子砲による影響の検査を受け、当然ながらデュボネは集中治療室に、ジニアも大事を取って個室に移された。内密なミーティングを行う旨を機長に告げると、やや広いミーティングルームへと案内された。ふたりで話すには広い部屋のように感じたが、トリフェーンの連れている空気の冷たさが、よりその感覚を強めた。

「…マークスマンの彼女、損傷が酷いですね…。マルチバインダーで外部光学装備がなかったので、メカニカルボディかと思っていたら、バイオロイドだったなんて。私がもう少し早く到着していれば…」

たらればの話をできる気分ではない。少し苛立って話を自分の側に寄せる。

「スペックスコアが低い子ならアンドロイドでも駄目だったでしょう…両脚まるごと組織培養して調整。復帰まで早くて三ヶ月。うちはロングレンジは彼女頼みです。これはいよいよエリア交代でなく解散、ですかね」

こういう備品を扱うような言い方は好きではなかったが。言葉尻にため息をひとつ加えたのを意に介さず、トリフェーンが話を切り返す。

「その件ですが。対IFS案件で私たちコードLが動いているのはご承知かと思います」
「遊撃戦主体でチームには属していないと」
「当初は効率上それが望ましいと思われていたのですが…エリアキーパーの経験が戦績に多分に関わるという報告がありました」

メンバー選抜時に評価基準となる攻撃力倍率の事だろう。状況に適合した生徒の戦力は、時に素の戦力評価の数倍にもなる。派遣先でのキャリア評価が明示化されるようになったということか。そして、そういった生徒とならレジェンドと組むに値する、と。

「では、今後は部隊に編入されると?」
「…率直に言います。エリア適応力が高いメンバーを残し、不足があるメンバーの代わりに私たちや評価16のメンバーが入る事になりました。先生には引き続きこのエリアを担当して頂きます。ですが…」

長距離射撃専任となると、うちには該当者は一人しかいない。

「そうですか…元々デュボネは外れる事に…」
「もう一人、フォワードのうち帰還兵の彼女が。しかし遊撃手の彼女も今回の戦闘で怪我に重ねて装備ロストなので、三人交代かと」
「アルメリアに何か不足が?」
「近代化改修という説明でしたが、彼女の場合機動力でしょう」
「残り二人では、指揮が私である必然性が無いように思えますが」
「先生が思っていらっしゃる以上に、適応力による戦技向上に先生自身の経験が重要、という事です…先生?」

全員が無事なら、緊急事態ということで納得したかもしれない。
しかし、状況が状況な上に、相手は私たちの名前を覚えない。
嫌悪感と、最大の不安に、私情が口をつく。

「…デュボネとは長いんです…。この件は完全に私の判断ミス…私も一度退いて、あの子を見守りたい。あまり心の強い子ではないんです」
「先生が彼女を軸として戦術を組んでいる話は聞いています。ですが…コードLの私も、何の繋がりもなくエリアキーパーを務められはしません。メンバーが変わるからこそ、早い再結束が必要です」

結束も何も。残るアンシャンテもローズも、組織に属さない状態から私達のチームに合流してくれた、元々スタンドアロンが信条だった生徒だ。それを知らないわけがない。私の上に立つ先生方は、よく生徒を理解しておられる。このプランは、おそらくトリフェーンの独断、もしくは先行だ。レジェンド頼みになる状況は理解できる。私達より立場が上でも不自然ではない。しかし…理性がうまく働かない。

「私情は捨てろということですね」
「命令などおこがましいですが…結論として」

思ってもいないことを。苛立ちと不安に加えて気分まで害して、たまらず話を切り上げる。このような向き合い方を生徒とする日が来ようとは。

「そうですか…。少し生徒と話をさせて下さい。構いませんか」
「状況が変わったので、変更メンバーは既に基地に召集されたと連絡がありました。折り返し発つことになります。それまでなら」

決定案件の中でなら、の話。私の都合は不在だ。仕事と割り切るにしても、私には簡単ではない。しかし、権限もないことも思い知った。

「十分です。あなたは私の手に余る存在だと思いますが…よろしく」

欺瞞を口にする。私の指示は通りそうにない。

「…承諾、感謝します」

心なしか、トリフェーンが一瞬悲しげな顔をしたように見えた。しかし、今はずっと大事な事に貴重な時間を割きたい。ブリーフィングルームに急ぐ。


「先生、ぶち悔しかは同じじゃけ、頭あげるっちゃ…」
「仕方ないって。あんた、復帰してすぐ配属だったじゃん。順番が逆になっただけだよ。約束もまだ済んでないし、絶対帰って来い!」

不本意ではあったが、状況説明と謝罪は担当教官である私の仕事。こんなことでふてくされているようでは子供っぽいという理屈が並行し、より苛立ちを加速させるも、アルメリアのまっすぐな明るさ、そしてアンシャンテの、数々の苦渋の上にあると思しきいい意味でのマイペースに、平常心が少しずつ戻ってくるのを感じた。

「あぁぁぁアンシャンテ約束の話は先生の前ではダメじゃけ!」

戦士である以前に学生である今の彼女たち。その日常を見守ることがどれほどの救いであるか。今ほど痛感したことはない。
ブリーフィングルームに、外殻を外し身軽な姿となったローズが姿を見せる。

「姉貴いつまでダイレクトラインしてんだ。…先生、背中のヤツの仇はアタシが取る。勿論デュボネの仇も。アタシを前に出す事を躊躇しないでくれ…頼む」

本体は軽傷で済んだジニアは、離陸から向こうずっと本家とのデータのやり取りに忙殺しているようだ。急ぐ案件なのだろう。一方のローズは名が示すかのような普段の刺々しさを削ぎ落とした、逆に落ち着いた、しかし確実に怒りを胸の内にたたえた様子を浮かべている。末の妹の彼女も、間違いなく彼女姉妹の気高き血統を等しく受け継いでいるようだ。初めて彼女が願い事を口にした。私は無言で頷く。

ややあって、ブリーフィングルームに看護スタッフが姿を見せた。

「デュボネさんの意識が戻りました。数分なら」

すぐに話をしたい。しかしこれが最後になっては、と焦る。伏し目がちな私の背中をアンシャンテが叩いた。私に向けた視線が無言で行動を急き立てる。
彼女の同僚のようなスタンスにはいつも助けられる。重い腰が上がった。

「すみません。この生徒に連絡を取ってくれませんか」

サポート班の一人にデータを渡そうと差し出した端末に、アンシャンテの手が乗る。そのままその手を押し下げられた。

「アーモンドにならもう電話した。慌ててたけど基地にはもう来てると思う。てゆーかそーゆーのアタシの役目じゃん?…こゆ時くらい頼ってよ」

本当に彼女の目線は私達先生に近い。生徒であることを楽しみながらも、皆を見守っている感覚がある。勿論私のことも。精一杯の作り笑顔でホンネを口にした。

「いつだって頼りにしていますよ、リーダー」
「いいからさっさと行けー!」

後ろ向きに身体を返される瞬間、照れて紅潮したアンシャンテの顔が見えたが、そのまま部屋を追い出されてしまった。

さて、いよいよ、だ。胸が痛い。心拍を耳に感じるほどの鼓動。
たくさんのケーブルやチューブを繋がれ、ベッドに横たわるデュボネ。いつもにも増して肌が白く見える。その瞳は集中治療室に入ってからずっと、優しい、少しだけ困ったような、力のない視線を私に向けている。

「デュボネ…話せますか?」
「先生…私…これでも…戦闘用…ですよ?」

二律背反した感情が胸に湧き上がる。チームを、私自身を助けてきた卓越した能力への信頼、でも、それ以上に、生徒である以上に。
感情を押し殺して、表側の言葉を紡ぐ。

「そうですね…だからあんな頼りきりの戦術を…」
「それで…いいんです…先生の…お役に立てて…私は嬉しい…自分のロールに…悩むこと…も…だか…ら…」

彼女の中で何らかの意識が強く巡ったのを感じた。
刹那、繋がった計器のひとつから警告音が鳴る。

「神経パルスに異常。副交感系のノイズに注意」
「いけない。循環器系が不安定になってます。シャットダウンしますので…」

申し訳なさそうな目で間に割って入るメディカルクルー。
その隙間から彼女の手がすっと伸びて、私の手を優しく掴んだ。咄嗟に包み返す。顔を見ると、穏やかな笑顔。しかし、目尻から涙が溢れている。
私の視界も、霞む。

「デュボネ…!待っています!だから…!」

ベッドから引き離される瞬間、デュボネは瞳を閉じて小さく頷いた。
集中治療室の中からは様々な声が飛び交っている。着陸後の引き継ぎ前にひとつ手術を行うようだ。彼らの手にデュボネのすべてがかかっている。今の私は無力だ。しかし、ここで立ち止まってしまっては、本当に未来を失くしてしまう。

涙を拭いて通路を歩き出すと、病室からジニアが顔を出した。一瞬ほっとした顔をするも、私の目を見て寂しげに視線を落とす。涙の跡に気づいてしまったようだ。私の方から言葉を切り出す。

「ジニア、もう歩いても?」

少しだけ微笑んだあと、ジニアはスカートの裾をつまみ、恭しくおじぎをしてみせた。もういつも通り、という事らしい。両手を下ろして前で指を組み、ゆっくりと口を開く。

「私の臣下は身を呈して本当にいい働きをしてくれました…。この忠義に酬いるのも高貴なる者のつとめ。親友の仇を取るも然り。…先生、私は大丈夫ですが、残念ながら装備がございません。ですので、私を庇ったあの者を継ぐものを育てるため、暇(いとま)を頂きます」

連なった言葉が先に進むほど熱を帯びていくのがわかる。目線も次第に上がり、私の瞳をとらえた。決意が重く滲む。
しかし、普段なら頼もしいその気高い様子が、私の元を一時離れる決意であることが、より強い孤独感に私を導いた。弱気が素直に口に出る。

「あなたが残ってくれれば、私の不安も多少和らいだのだけど…」

戸惑いの表情のジニア。無理もない。私だって彼女の前でこんな顔をするのは、初めてなのだから。

「らしくありませんわ。先生はいつも先生らしく、変わらない目線でわたくしたちを指揮して下さる。内容が大胆な作戦でも戸惑わず戦えるのは、先生の自信を感じ取れるから、ですのに…」
「…ごめんなさい、今回のは流石に堪えました」

情けない。自分でそう思えて、返ってくる言葉に身構える。
しかしジニアは、閉じた瞳をゆっくりと開くと、凛とした口調で話した。

「…お気持ちは察するに余りあります。先生に一つお願いがありますの。基地に戻って、そこでどんなハプニングがあっても、それを受け入れて下さいまし。直接仇討ちに出向けないわたくしの、渾身の一矢ですわ。どうか…」

決意に満ちた彼女の瞳に、窓から射し込んだ月明かりが映り、輝く。
彼女もまた、自身の困難を全くの別として、私を案じてくれている。
自身の情けなさより彼女の誠意への嬉しさ、頼もしさが先行した。
立場はもはや問題ではない。これはチーム全員のことだ。

「わかりました。よく周りを見てくれているあなたの判断を信じます」

本来なら彼女もチームリーダー格の生徒。ここで学びたいことがある、という本人の強い意向で私の生徒で居続けてくれている。まさにその学ぶべき時が、今だと感じているようにも見える。

「ご武運を。わたくしたちは決して排他性の上に集う者ではありません。しかし、誰一人欠くことの許されないチームであることも疑いません。時が来たら、気兼ねなく集合の令を。それまで…」

誇り高いジニアの、最大級の誇りが示される。それにはチームの皆が含まれる。導き手の私がやることはひとつだ。

「…こんなイレギュラーはさっさと済ませるよう、全力を尽くします。約束です」

ジニアの顔に笑みが戻った。息を軽く弾ませて声を出す。

「はい!」

夜も更けた頃、救助機は基地に到着した。
デュボネの手術は幸いにも無事成功し、機能回復のためにラボに搬送される事となった。生命維持カプセルの中で、仮死状態でナノマシン誘導液に浸かる彼女。会話ができる状態ではない。手術はあくまでコンディションの安定化処置で、失った脚を含め傷はそのままだ。ナノマシンにより少しずつ構造は回復しているのだが、修復機能を阻害しないため傷は覆われていない。一番酷い状態を目の当たりにし、唇を噛む。

これほどの状態になると知っていたら、彼女を呼ぶことは確実に思い止まっただろう。会話ぐらいはできると思っていたのだ。しかし今、残酷な現実の前に、彼女はいた。デュボネの親友、アーモンドは。

狼狽える、などという生易しい状態ではなかった。機能を止めてしまったのではないかと思うことしばし、泣き崩れる。
私からは声をかけられなかった。ラボのスタッフが一言、もう心配はないですが、そろそろ移動しなくてはと声をかけた時。
アーモンドは私に怒りの目を向け、堰を切ったように喋り出した。

「こんな…ひどい…先生…。あなたはっ…!あなたはデュボネに甘えすぎではありませんか!」
「そうですね。私のせいです。あなたの大切な親友を、こんな目に遭わせて」

おとなしい同士で気が合ったのか、芸術性の価値観が近かったのか。同じ寮に住むこととなったその日から、ふたりはとても仲が良かった。アーモンドには姉妹がいるが、むしろデュボネとの気持ちが強いようにも見えた。
デュボネはアーモンドにだけ過去を明かしていた。失われた故郷のこと、本来の任務のこと、そして、私が数少ない同郷であり、互いに想いを寄せる関係であること。故に、アーモンドは私のことも大切にしてくれていた。

「…違う…違います…あなたの最愛の………ごめんなさい」

憎もうにも憎めない気持ちが、わずかな言葉から溢れる。そのことがわかるのが辛い。彼女の感情の捌け口は私であるべきなのに。優しいこの少女にはそれができない。私はこの子も傷つけた。

「いろいろ失格ですね。でもわかって。前に進むしかないんです、今は。だから…」
「言われなくても。私の先生にきちんと詫びて下さい。デュボネが回復するまで、私は離れるつもりはありませんから」
「アーモンドに抜けられるのは痛いんだが…」
「先生…」

この場に現れると思っていなかった意外な人物の登場に、ついかしこまる。後でじっくりお詫びを、と考えていたアーモンドの担当教官が目の前に現れたのだ。優れたチームを率いている事で先生の間では名のある豪の者。咄嗟に言葉が浮かばずただ頭を下げる私の両肩に手をかける。

「IFSの件は共有案件でしょう。…心中察します。これくらいのことしか出来ないのが歯痒いが…なに、人不足はツテで何とでも」
「…本当にご迷惑を…」
「そんなに簡単に頭を下げるもんじゃない。増して、コトが起きてからまだ数時間、しかも急ぎ前線に戻りだ。今は自分の事を。…貸しを返してくれるのを楽しみにしてますぜ」

場数の差を感じさせる立ち振る舞い。しかも、その口振りには余裕があった。こちらの肩の力もやや抜ける。

「…借りが増えすぎて覚えきれないですよ」
「そういう時はまとめて返しゃいいんです、IFS討伐に選ばれたのは理由があるんでしょう、あんたにしかできない事かもしれない。それで」
「了解しました。あれには任務以上に因縁もできましたし」

選ばれた。そういうことになるのだろうか。出鼻を挫かれた事になるが、私にも退けない理由ができた。

「その意気だ。こちらの事は任せてくれ。アーモンド…」

教官同士の話に終始しかけた事を気にかけて、先方が会話を促す。
厳しい眼差しはずっと私に向けられていた。そのままの目線で短く呟く。

「…失敗は許しません。あの子の事を忘れることも」
「勿論。あなたの分まで戦います。…デュボネを、頼みます」
「結構。この件、君は一切気にせず、任務に集中して構わない」

彼女の言葉に真剣な目線で応える。満足げにその様子を眺めた後、アーモンドの先生は私に飲み物を手渡しながら、発言記録を示す電子認証を提示した。後ろ盾は任せろという意図を汲み、あらためて頭を下げる。

「ん?何か騒がしいな」

先生が自らの飲み物に口をつけようとして、怪訝な顔をして周囲を見回す。私は余裕がなく気づかなかったが、出撃準備中の輸送機の方で何かあったようだ。顔を見合わせ互いに頷いた後、私は輸送機へと走った。


騒ぎの原因はすぐに見て取れた。生徒達の中でも通常装備状態の地上型で最大を誇る、敵でもなくしかし特定の先生の教えを請わない、心優しきトラブルメーカー、ダイアスポア。彼女が何故か、出撃に備え装備を持ち込む車両の隙間に窮屈そうに足を差し込みながら、輸送機に向かい歩を進めている。両腕に抱えたコンテナには、見覚えのあるマークが刻まれていた。

「こんばんはー!お届け物に上がりましたー!」
「こらー!ダイアスポアー!今忙しいの!邪魔しなーい!」

陽気に声をかけるダイアスポアに、交代要員として呼ばれていたエメラルドの苦言が飛ぶ。歓迎を期待していたのか、ダイアスポアは眉をひそめた。

「えー。急ぎの届け物って頼まれて、頑張って運んできたのにー。ジニアさんはー?」

名前でぴんときた。先程ジニアが言っていた「受け入れるべきハプニング」とはどうもこの事らしい。しかしジニア本人は既にこの場を後にしている。きょろきょろと周囲を見渡すダイアスポア。
その足元に、学園内でも有名な、紫の髪の少女が姿を現した。

「ジニアが頼んだ荷物ならここで合っている。エメラルド、3分待て。待機命令が出る筈だ」
「ライラックさん!どういうことです!」

ジニアの姉妹にしてアンドロイドの王を名乗る、探求者にして孤高の戦士、ライラック。ジニアが機内で通信をしていた相手は、どうやら彼女のようだ。その「命令」に当惑するエメラルド。無理もない。彼女もまた優秀な砲撃系アサルトなのだが。

「どうもこうも…王たる者、親族を傷つけられて黙っているようでは、いろいろとな。アンシャンテ!いるんだろう!PJパッケージ用のランチャーを持ってきてやったぞ!」

どちらかというと、ジニアの件に怒りを覚えている様子ではない。楽しんでいる風にも見える。アンシャンテとは一時犬猿の仲だったが、相互に立場と実力を最もよく理解し合うライバル関係にある。

「なっ、あんた!何勝手してんのよ!センセー!こいつ…」
「彼女の言う通りに。お会いできて光栄です、よく校長が折れましたね」

呼ばれてひょっこり顔を出したアンシャンテが、構ってる暇はないとばかりに苦言を呈するが、先程のやり取りから察するに、彼女はジニアが自ら指名した後任だ。ジニアとの約束通り、状況を受け入れる。

しかし彼女は現在、学園内ではトップチームにあたる校長先生づきな筈だ。許可を取るのは難しく思えたのだが。

「あいつは私のことは基本放任だからな。それに、ジニアの件を抜きにしても、こういう捕物は私の畑だろう?新装備のシェイクダウンを現場でやることになるが、いつもの事だ。気にするな」
「は、はぁ」

対等な立場にあるとは聞いていたがそれほどとは。しかも殲滅戦に長ける各種装備を使う彼女の、どうも最新装備の披露を兼ねるらしい。
校長先生、後で始末書とかなしですよ?

「すみません…本当に待機指示来ました…」
「わざわざすまなかったね、エメラルド。君のパートナーは?」
「エリカなら来ないぞ。今頃コーチョーの家に招かれてる筈だ」

命令文が正式に出た上に、事に校長先生が絡んでいるという。
となるとこれは正式な辞令だ。ジニアも随分無茶をする。エメラルドには悪いことをしたが、おそらく当初の指名はトリフェーンによるものだ。イニシアチブがこちらに傾いたのは有難い。しかし、アルメリアの代理は?

「それで、コーチョーが連れて行けとあてがったのがコイツだ。抜けてるが腕はいいぞ」
「はじめまして…ロータスと言います。ってライラックさん、抜けてるとかヒドイですよぉ〜」
「はぁ…そういう事はきちんと得物を持ってきてから言うんだな」
「はっ!私の鎌!どどどどぅしよぅ忘れて…あっ、あった!よかったぁ」
「こんな調子だ。何、周囲が確認を怠らなければ…どうした?」

どうも校長先生は、事情を汲んだ上で、私のチームを対IFSのフロントラインのひとつと位置付けたようだ。ドジっ子漫才を演じてみせた彼女は、メカニカル系ボディに恐ろしくピーキーな動力系、そして古典的武装ながらも洗練された制御と最新素材により、中距離までで高い攻防一体の力を持つ、異端の少女である。鎖鎌使いのロータス。本気になった時の高い防御力故に、二つ名を持つ。

「王に『神速の盾』…校長、ご自身で出られた方が…」

正直なところだ。ロータスは校長先生の右腕と呼ばれる存在である。震える声で呟くも、ライラック王に即答される。

「何を言う。取るのだろう?仇を。お前でなければ意味がなかろう」
「……そうでした」

すっかり彼女のペースだが、言う通りだ。プレッシャーが力へと姿を変えていく。有事にあたり、まだキャリアの浅い私を、全力で後押ししてくれている方々への感謝に、胸が熱くなった。

「しっかり頼む。ローズ、久しいな!」
「げっ…ちっこい姉貴…」

聞きしに勝る王の余裕に驚きつつ、姉妹の再会に乗じて出撃準備に戻る。
やがて離陸の時間。いろいろな事があったが、やっと長期任務のスタート地点に立ったばかりだ。実質的には何も始まっていない。
疲れを気遣うアンシャンテに、移動中の休養を薦められる。気がつけば昨日の作戦前から全く休んでいない。一応職歴柄数日は不眠不休に耐えられる…私には生徒たちの作戦に同期できるだけの身体能力も求められる…のだが、精神面に響いたので言葉に甘える事にした。

当面の我が家となるコマンダールームに向かう途中、トリフェーンとすれ違う。言葉を交わさず立ち去ろうとする肩越しに声がかかった。

「不思議なものですね、事件からまだ一日経っていないのに、これほどの規模でチームが再編されるとは」

人選の変更への皮肉にも思えたが、踵を返してはっきりと告げる。

「再編ではありませんよ」
「えっ?」
「一刻も早く終わらせる。そのためでしょう。私のチームの再編は、その後。元のメンバーが揃った時です」

そうでもなければ、これほどの協力は仰げなかっただろう。というより、私が何かをする前に、所縁ある、おそらくは経験を共有する面々が手を差し伸べてくれたが故のことだ。

「…先生は本当にあのメンバーを信頼しておられるのですね」

当然の事だが、しかしそれだけではない。そして現状において、トリフェーンの力が不可欠であることもまた事実だ。他のレジェンドでなく彼女が来てくれた事には、感謝の念もある。

「あなたを信頼していないわけじゃないですよ、あなたは私の最初の生徒じゃないですか」
「覚えてらっしゃったんですか」
「当然です。…歩んだ道がその後変わっただけで。私は小規模の解放戦線を担当しながら教育者に、あなたは様々な活躍を経て今やアンドロイド達を統べる存在の一人に…」

誰しも最初があり、変遷を経て状況に慣れていく。そして少しずつ変わる。そういうものだと思っていた。私たちもその普遍的な流れの中にあると。しかし意外にも、最も成長したように見える彼女が声を荒げる。

「私はっ…!強くなりましたが、中身は変わっていません!」

何かを恐れているようにも見える。しかし、彼女の納得は、少なくともこの時点の私の納得には程遠かった。力は支える心なくしてそこに存在することは叶わない。彼女は絶大な力を御することができているのだから。

「そうだとしても、歩んだ道は違います。あなたは私の横で戦う存在では、もうなくなっているのですよ。…行きましょう、レジェンドを導く戦場へ。…あなたは、私に教えを乞う立場ではない」
「先生…」
「最後に一つ、あるとすれば。自分を信じて。迷わないで。あなたの姿を支えにしている仲間が、たくさんいるのだから。胸を張りなさい」

彼女は凛として立つ義務がある。そう思う。
何かを見失うことがあったとしても。
全く理解を得られない状況に、最強の戦士の瞳から涙が零れる。

「…んな…こんなことなら…レジェンドになんて…私は…この孤独に…耐えられない…っ」

私は彼女の立場にはなれない。しかしだからこそ、今の彼女を覆う霧がよく見える。

「誤解がありますね。…みんな、支えを失わないために死力を尽くしているんじゃありませんか。決して一人ではありません」

ロールアウト以来、周囲の関心の目から外れた事のなかった『エース』の身が、一瞬震えた。

「…お願いがあります」
「可能な事なら」
「チームリーダーは他のメンバーでお願いします」
「もとより、そのつもりです。アンシャンテは見ての通りですが、過酷な状況を切り抜けてきた優秀なリーダーです。頼り、頼られる事を思い出すいい機会でしょう。名前で挨拶をする価値はありますよ」

レジェンドという言葉が、力だけを象徴するというのなら。彼女は思い出す必要がある。私たちの根幹を成すものを。

「…大変な失礼ばかり…。申し訳ありません」
「いいことじゃないですか。レジェンドでもまだ成長できることがわかった」

大袈裟な言葉の端に振り回された。それだけのことだったのかもしれない。私のチームのヘルプに彼女が回ってきた状況に、ある程度理解が及んだ。能力は理解する。しかし役割分担の上で特別はなしだ。
彼女もチームの一員に過ぎず、また紛れもなくチームの一員なのだから。

「そう…ですね。出撃前に顔合わせをしないと。それでは」

力なく呟いて立ち去るトリフェーン。
言ってはみたものの、長く皆の特別だった彼女が、自身の言う『変わらない』位置に戻れるかは、正直なところ疑問ではあった。
しかし翌日から、彼女は力以上の能力を発揮してくれた。信頼に根ざしたチームとしての意識を。


トリフェーンの火力に加え、ライラックの新装備…HSと呼ぶらしい…の火力も素晴らしく高く、アンシャンテのとっておきだった新しい銃、ローズが姉のはからいで手にした新しい剣、またロータスの実力もあり、対IFS戦の進捗は上々だった。

むしろ平時の任務で装備を持て余してしまい、加減に苦労したほどに。火力評価の低い生徒にも適任が十分にあることを示すかたちとなった。

また、他チームとの共同戦の有効性や、一時的に手助けに来た生徒の活躍著しさも目覚ましいものがあったが、このあたりのレポートは別としよう。

ともあれ、全くの未知から開始した対IFS戦も、敵側の成長に加え進化による状況のリセットがあったものの、次第に既知の要素・経験を増すことで好転していった。敵はこちらが戦闘時回復のために使用するエナジストを間接的に吸収することで腹を満たしている事も判明し、経験を積んだ生徒による集中攻撃が確立した段に至り、IFSはついに減少に転じた。その頃には周辺宙域まで含め探索も可能となっており、索敵による先回りも可能となっていた。

生徒の習熟とIFSの成長は奇しくも同水準で頭打ちとなり、消耗戦の様相を呈するも、数で上回る生徒たちの尽力で、いよいよIFSとの戦いは終局を迎えた。
数パターンの侵攻ラインにそれぞれ配置された部隊。

最後の敵が相手として選んだのは、私たちのチームだった。
この時、敵が人類同様『最後の意地』を残しているとは、皆の想像の外だった。
いつも通りで片付けるつもりだった。一部の生徒を除いては。


「墜ちやがれッ!でりゃぁぁぁぁぁぁ!!」

ローズのギガブレード3がIFS001Aの艦首を削ぎ落とす。しばしの沈黙の後、その残骸が激しい形状変化を起こし始めた。B形態への進化。しかしこれも織り込み済みの展開。最後の戦いということもあり、全員が最初からこの状況を想定していた。
リーダーとしての風格を高めたアンシャンテが、やれやれとばかりに言う。

「まあ、予想通りだけどさー、進化に重ねて成長しきってるとか、最後まで楽させてくれないねー。みんな、例の電波のタイミングしっかりねー。使われる前に潰してやる!」

強い口調にライラックが同調した。

「いい勢いだ、弾薬の補給は済んでる。行けるぞ」

最後方で戦場に目を配るトリフェーンから通信が飛ぶ。

「正面右、ガトリング弾幕来ます!」

即応するアンシャンテ。その表情に油断はない。

「ロータス、防いで!ローズは右腕、ライラックは左腕を。トリフェーンは頭を。これで終わらせる!」
「クロスハリケーン展開ッ!はぁぁぁぁぁぁッ!」

IFSの弾丸が、ロータスの周囲で閃光に変わる。高速で飛び交う鎖が壁を作る…彼女が盾たる所以である技だ。
掃射を終えたIFSの左腕のガトリング砲が、回転速度を落としていく。隙を見て、アンシャンテの指示通り攻撃に移るローズ、そしてライラック。

「バレル多けりゃいいってもんじゃねぇ!いっけぇギガブレード!」
「光栄に思え。この王の全弾解放を片腕で受けられるのだからな」

ローズの剣がガトリングの砲身に食い込む。あえて鋭断せず潰すように刃を入れ、砲撃能力を奪った。
一方で、様々な武器の嵐のような猛撃を受けた右腕が大爆発を起こす。ライラック曰くの『対艦隊・要塞戦装備』だが、今のIFSを一撃では抜けない。それほどの激戦の果てに、今この瞬間があった。そして。

「バスタープラズマ、臨界まで80、90…」

トリフェーンのラストシュートが放たれようとした、その寸前。
指揮艦のセンサーがあらん限りの警告を発する。

「この感じ…いけない!総員アンチEMPポッド最大出力!」

油断した。進化後のIFSのスキルは電波による広域への強EMP攻撃。それは既知の事だったが、これほど早いタイミングでの発動例はない。
アンシャンテが動揺して叫ぶ。『あのとき』を思い出しながら。

「なっ何っ!?まさか…早いよッ!トリフェーン!射撃中断!」

しかしトリフェーンは退かない。自分が仕留めないと、全員に危険が及ぶと判断し、残りコンマ数パーセントのプラズマ集束に賭ける。

「間に合わせてみせ…きゃァァァァァァッ!!」

トリガー発動のためのパルスを退けて『それ』は空間を通過した。直撃を受けたトリフェーンのバスター砲に蓄積されたエネルギーが、行き場を失い空間に放たれる。トリフェーン自身を巻き込みながら。

「トリフェーン!」

私の叫びに応えないまま、艦の上部から転げ落ちるトリフェーン。

「ロータスの意識シグナル途絶…ソフトランディングシーケンス発動」

スタッフが告げる。ロータスは咄嗟に艦の前方で壁になろうとしてくれていた。それ自体はほぼ叶ったが、彼女の戦列復帰は無理だろう。
一方でIFSは高速で前進を始めた。指揮艦に迫っている。
その左腕に張り付いたままのローズに、ライラックが叫ぶ。

「ローズ、どうした!早く離れろ!」
「背中の相棒が気ィ失ってやがる!動けねぇ!」
「こいつ、右腕ごとローズを地面に叩きつける気か…させるかァっ!」

IFSの振り上げた左腕を、ライラックが体当たりで止める。スラスターから強い光が放たれるが、腕の動きを抑えるのがやっとだ。本体の突進は全く減速する気配がない。IFSの頭部が再び光り始める。

「姉貴、アタシに構うな!もう一発来る!」
「馬鹿者!ここで退けるか!」

自分の詰めの甘さに唇を噛む。アンシャンテの泣きそうな声が耳に届いた。

「先生ッ、助けて…」


一方。
IFSの進化と時を同じくして、戦闘エリア内に到着した輸送機があった。

「槍の使い方に自信が持てましたわ。此度は本当にお世話に…」

そう言ったジニアの視線の先に居るのは、トリフェーンと同じプリンセスシリーズの一人目にして最初のレジェンド、プリメラ。最高性能を誇る存在であり、彼女たちアンドロイドの中でもアイコニックな存在であるが、トリフェーンと違い気負ったところがない。しかしその姿はまさに天空の騎士。ジニアと同じく、大型のランスと盾を手にしている。
格上を明示化するいで立ちと裏腹に、気さくな言葉でジニアの礼に応えた。

「私の方こそ!客観視は大事ですね、ジニアさんが戻られたのは私には幸運でした…お気を悪くなさらないで。背中の素敵な貴方も」

新しいジニアの従者が、センサーを光らせて何かを語りかける。代弁するジニア。

「『初陣前に女神の祝福を受けられるとは光栄至極』と」
「まあ、お上手」

笑顔で言葉を交わす二人。その時、強い振動が輸送機を撫でた。

「今の何ちゃ?」

咄嗟に窓を覗くアルメリアに、プリメラが並ぶ。

「…いけない、例の電波です!トリフェーンが直撃を受けたみたい…すみません、ブリーフィング済ませてから突入したかったのですが、彼女飛べないので拾いに行きます。…大気圏外から落ちてもかすり傷ですけどね」

さほど心配顔でもなく、困り顔程度で告げるプリメラ。『一番』の名を冠する彼女は、自分の言動が周囲に与える影響をよく心得ている。
その落ち着きは他のメンバーとも共有される。ジニアが通信を聞きながら冷静に口を開いた。

「こちらも混乱してるみたいですわね…サプライズと行きたかったですが、一撃必殺で。準備はよろしくて?」
「うちはいつでも大丈夫じゃけ。デュボネは?」

数ヶ月前、瀕死の状態で戦場を去った少女は、自信に満ちた表情で答えた。

「すぐにでも!」

笑顔で互いの顔を見るジニアとアルメリア。

「では、テールゲートオープン。プリメラさん、本当に有難う」

輸送機の床がゆっくりと下に開く。瞬間、槍を小脇に抱えた右手を振りつつ、プリメラが滑るように光の刺す方向へ動き出した。笑顔で声を上げる。

「こちらこそ!皆のご武運を!」

テールゲートが半分も開かないうちに、プリメラの背中の翼の光は輸送機の遠く前まで達していた。やがて空中で紺色の人影とランデブーする。

「まるで光の帯ちゃ!もう届いちょる」
「私たちも行きましょう。アルメリアさん、IFSの左腕を落とせますか?」

新しく装備された背中のバインダーを動かしながら、デュボネが言った。

「できなくてもやるのが心意気じゃけー。任せとき」

やや派手目のカラーリングからロービジ気味の色に装備色を変えたアルメリアが、新しい武器を軽く数回転させながら答える。

「わたくしはどうすればよろしくて?」

背中の従者でなく自らの手で槍を持ったジニアが訊ねた。

「すみません。IFSの頭部装甲に一カ所、穴を空けてもらえますか」
「お安い御用ですわ。そのあとは…頼みましたわよ、デュボネ」
「はい。では、機外降下後、フル加速で目標に接近」

それぞれの飛行装備を稼働させ、ゲートの端から飛ぶ三人。軽く自由落下の後、デュボネのカウントに合わせ姿勢を整える。

「3・2・1・出撃!」

一気に輸送機を追い越した三組の翼は、まっすぐにIFSの姿へと向かった。


「大丈夫ですか?トリフェーン」

ゆっくりと目を開けたトリフェーンの目に、微笑みを浮かべるプリメラの姿が映った。

「プリ…メラ?なぜあなたがここに?」

状況が把握できていないトリフェーンに構わず、はきはきと説明を続けるプリメラ。これから起きることに一切の疑いもなく、何があったのかもお見通しの調子で。

「お迎えに来ました。さ、原隊での最後のお仕事、きちんとこなさないと。あのIFSは間もなく沈黙しますので、落ち着いて動力炉抜いちゃって下さい。さっきみたいなの、なしですよ?」
「あ…当たり前です!」

少しだけ驚いた顔の後、慌て気味に答えるトリフェーン。
ややあって、寂しげな顔で続ける。

「急ですね、お別れの一つも言えないのですか」
「私たちは、コードLですから。次の任務が始まっているなら、全速でそこに向かわなくては」

感傷的な質問にもプリメラのテンポは変わらない。

「…プリメラ。あなたは前に戻りたいと思ったことは?」
「そんなの、当然あるに決まってます。考えても無駄なのも承知ですよ?結局、皆のためなら、これが最善最良最高じゃないですか」

凛とした表情で。
その顔を見て、かなわないなぁと笑みを浮かべるトリフェーン。
一言だけ呟いて、自身もレジェンドの風格を纏う表情に戻った。

「そうね…。バスタープラズマをオーバードライブさせるわ。合図をしたら一度私をパージして」
「了解」


IFSが眼前に迫る中、切れた唇から広がる血の味を感じながら。
走馬燈と言うのだろうか、悲劇の場面を激しく頭の中に描きながら。
ただ、呟いた。

「駄目なのか…二度も…二度もこんな思いを…」

その時。

「先生、諦めないで」

何度も思い出し、胸を締め付けた声が響く。
心の中でなく、たしかにこの耳に。
直後、ブリッジの直上から放たれた光が、IFSの頭部に直撃する。

「IFSのアンテナが…弾けた!」

驚きの声をあげたアンシャンテ。
弾道の元に目をやり、少しだけ涙を浮かべた後、強気な笑顔で言った。

「…おいしいとこ持ってくなー。デュボネ!ユーハヴ!」

リーダー移譲のコールにデュボネは即応し、続ける。

「アイハヴ!アンシャンテ!フリーズバレットの弾丸を座標11250147に到達20.18秒のタイミングで投げて!」
「今の装備で使ってないよ!?」

困り顔で答えるアンシャンテ。デュボネは自身の胸元を笑顔で指差す。
やれやれとという顔をすると、アンシャンテはペンダントを引きちぎった。

「ったく、お守りだっつー…にっ!」

ペンダントトップが指定座標に舞う。それはすっぽりと、デュボネの手に収まった。

一方、デュボネの一撃で仰け反ったIFSに、アルメリアが近づく。腕を押し上げていたライラックに声をかけた。

「ランディニの妹ー、少しだけ力抜きー。今からその肩、斬り落とすっちゃ」
「…!頼む!」
「ほうよ!ガイアハルバード、エッジセパレーション!抜けぇ!」

ライラックの声に呼応して、アルメリアがハルバードを振り下ろした。先端の刃が離れ、大きく弧を描いてIFSの肩を付けごとえぐった。まるで空間をこそげ取るように。しかし、急に質量を減らした腕はライラックの大推力で上空に跳ね上げられてしまう。

「馬鹿者!威力ありすぎだ!ローズが腕に潰されるぞ!」

ライラックが声を上げるが、ジニアがすぐに答えた。

「ご心配なく…アーマーベイルアウト!ローズを助けなさい!」

より逞しい姿を得たジニアの『背中の御方』から、ジニア自身が離れる。しかし生身ではなく、ライラックのDB装備に近いライトアーマーを纏っている。背中の御方はガトリングのバレルを力任せに引き千切ると、ローズと鎧を担いで後方へ離脱した。

「ほう…ジニア、共の者なしでその槍を扱うか」

姉妹のアーマーの設計にも関わったライラックだが、戦列を離れた後のジニアの装備は臣下に開発協力を命じたに留まっていた。ライバルを見るような目で姉妹の勇姿を見る。

一方、ジニアの新しい槍は、後端に直接装備されたジェネレーターをフル稼働させて、エネルギーを蓄積していた。やがて回転体が止まり、ランス後方から安定翼状のものがせり出す。
プランに従い、ジニアはIFSの頭から少し離れた位置でランスを構えた。

「デュボネ、タイミングの指示を!」

ジニアの言葉に呼応するかのように、デュボネの背中から装飾銃状のバインダーが次々飛び立つ。ジニアのランスを囲うような位置についた瞬間、デュボネが声をあげた。

「…今です!」
「ライトニングランス、イグニッション!」

ジニアの声に呼応し、ほんの一瞬刀身だけ大きく突き出し、すぐ戻る槍。きれいにIFSの頭部に穴を開ける。デュボネのバインダーからその穴へ、一斉に弾が放たれる。内部の爆発で装甲を膨らませるIFSの頭部。すかさずデュボネが叫んだ。

「バレルビット全機、そのまま突っ込みなさい!」

先端に青い光をたたえて、デュボネの名に従うバインダー。IFSの頭部が爆ぜて、メタリック色の筋が露出する。IFSの神経節だ。
左の掌に載せたペンダントトップ=フリーズバレットを見て、呟くデュボネ。

「ありがとうアンシャンテ…」

右手に持った大型ライフルのロックを外して、中折れした後ろから弾丸を差し込み、ロックを戻す。

「先生、私はもう」

ボルトアクションライフルを扱うように、スライドハンドルを引く。その瞬間、バレルが4つに開き、内部でガイドリングが輝く。目の高さに銃を寄せると、ホログラフのレティクルが光った。その先にはIFSの神経節。

「大丈夫です…!」

デュボネがトリガーを引く。着弾から間も無く、IFSの全身から冷気が溢れ、巨体はその動きを止めた。

「今よ、離して」

トリフェーンがプリメラに言う。
程なく派手な閃光がIFSの胴体を包み、やがて全身を融解させていった。
バスタープラズマのコントロールフィン、そしてバレルがゆっくり閉じる。すかさずプリメラがトリフェーンを抱きかかえた。

「お見事でした」
「お粗末様でした」

トリフェーンの顔に、柔らかい笑顔が浮かんだ。

終わりを意識してからほんの数十秒だろうか、長かった任務は終わりを告げた。その直前、はっきりと聞こえたあの声。圧力扉を開けて、デッキに飛び出し、声の主を探す。しかし見つからない。

空を見回すと、ライラックの姿が目に入った。任務が済んだ今、彼女は私の指揮下を外れた。今のうちに一言でも感謝を告げようとするが、装備を巡航形態に変形させながら、彼女はプリメラに近づく。

「終わった、か…プリメラ!次の任務は西エリアか!」
「ご存知でしたか。ということは…」
「勿論同行させてもらう。アンシャンテ!ロータスを頼む!先生!」

私の知らない任務の話題に軽い驚きを覚えていると、彼女はこちらを向き、初めて私に友を見る笑顔を向けて、言った。

「チーム再結成を、心から祝福させてもらう!」
「IFS殲滅でなく、そちらですか」
「当然だろう!引き続き妹たちを頼む!では皆、また会おう!」

全て承知したかのような言葉を残して、私の言葉を待たず、ライラックは飛びたってしまった。民を救うが王の本懐と、任務中幾度となく彼女に聞かされたが、彼女は体現者だ。王という地位も含めて。それにしてもまぁ、呆気にはとられる。

驚き顔で空を見る私に、トリフェーンを抱えたプリメラがくすくすと笑いながら近づいてきた。レジェンドプラスの共演。トリフェーンの姿を確認したアンシャンテが駆け寄ってくる。

「同行って言ったのに先越されちゃいましたね。皆さんの勝利に心から祝福を!」
「先生…再結成(リチーム)、おめでとうございます。ここで頂いた言葉は宝物です。皆さんと組めてよかった。ありがとう、またいつか!」

頂点たる生徒の笑顔が輝く。そして道に悩み私の元に戻ってきたトリフェーンも、曇りのないいい笑顔。彼女の心の旅も、無事ゴールに辿り着いたようだ。プリメラの背中に大きな光の翼が膨らむ。ゆっくりとそれを羽ばたかせて宙に舞うと、ぱっと光の羽根を散らすや二人の姿は遠くの空へ消えた。その後ろ姿に、アンシャンテが大きく手を振って声を上げる。私も目を細めて手を振った。

「アタシらだってレジェンドになって、すぐまた肩並べてみせるし!またねー!」

他の生徒たちも集まってきた。ローズの鎧はなんとか機能を回復したらしい。

「すっげぇ自信だな、いたた。にしてもちっこい方の姉貴は忙しいなぁ…」
「あなたもこの後、すぐに装備更新のためラボ戻りですわよ」

かつて背中の御方と呼ばれた彼女の従者は、今は横で付き従っている。この姉妹の進化の道程は、力無きごく普通のアンドロイドにも光をもたらすだろう。

「なんだよ、たまにはパーティーくらい、出てやろうと思ったのに…」
「まあ、大仕事の後じゃき。次の前にいっぱい食べんと」
「オシャレパーティーですか!?置いてけぼりな私も参加しちゃって構わないですか!?」
「流石に休みとかパーティーとか無かったら次の仕事ストライキだしー。ねぇセンセ…」

賑やかになってきた。周囲にも祝勝ムードが広がる中、私はようやく探していた生徒の姿を見つけ、その場を離れ彼女に駆け寄った。
話を途中にされたアンシャンテだが、その様子を見て微笑んで呟く。

「…よかったね、二人とも」


夢にまで見た姿が、今また目の前にあった。
美しい藍色の髪も、透き通るような肌も、華奢な肩も、あの日失った細くなめらかな脚も、吸い込まれそうな紺色の瞳もそのまま。
故郷の少女の端的な美点をなぞる外観だが、残念ながら同郷の私には何一つ受け継ぐ要素がない。姉を名乗るには私は歳を重ねすぎているし、母親を名乗るにはまだ流石に若い。
しかし、亡国の第5王女である私にとって、この子はかけがえのない家族だ。生徒である以前に、そして私の最後の近衛である以前に。

「あの…傷はもういいのかな」

もう目の前からいなくなることはない。しかし、臆病が態度に出てしまう。

「陽射しが苦手なのは性分みたいで…そういうのは変わらないんですが…。身体は万全です。先生、私、評価16ユニットになったんですよ」

はにかみながら彼女がくるりと回ってみせる。背中の機動ユニットが新設され、先程の戦闘で活躍した新装備が整然と並ぶも、それらは従来通り近衛に相応しい美しい装飾を施されている。ラボのデザイナーには感謝の念を伝えねばなるまい。

「おめでとう、すばらしいわ。でも、その強さ。他のチームに転属になったりは…」

可能性はある。通常、チームの生徒の評価点合計には上限がある。今回の任務に関わる更新で、私の生徒は全員評価点を上げた。もしくは上がるのが確定だ。しかし。

「そんなわけ、ないじゃないですか」

デュボネは私の手を取ると、目を見て微笑んで、言った。

「『姫姉様』のために、強くなったんですから」

ああ。
この名で呼ばれる事をどれほど夢見たことか。
こらえきれない涙が恥ずかしくて、たまらずデュボネを抱きしめる。

「…おかえり」

デュボネの手も私の背に回る。涙が頬を伝うが、瞳を閉じた顔には満面の笑みが。ここはまだゴールではない。しかし。

「…ただいま帰りました!」

断ち切られかけた絆がより強くなった実感に、この上ない幸福感を感じた。


Reteam / Reunison 完

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