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2014年4月 9日 (水)

春の小径にて。 #バトルの時間 SS

アーモンド主人公で「先生!次はバトルの時間です。」のSSを。
大変好きなゲームなのですが既に正式サービスを終えているのが残念でなりません。
折り畳みの後に開始。興味がある方だけどうぞ。

※もう何作か出るかもしれません。

「美しいですね。先生の国のラボが最初のアップデートで彼女をレジェンド級に仕上げたのも頷けます。拠り所になるだけの気品を感じます」

彼女、とはサクラのことだ。私の担当ではないが、先のIFS002討伐戦において、戦局の収拾におおいに貢献した、何人か存在する日本刀持ちの生徒でも今や最強を誇る「伝説の剣豪」である。本気の彼女と会いまみえて、エナジストの世話にならなかったチームは、私たちの同僚の中でもほんの数人の先生方の指揮下だけだ。
恥ずかしながら、私とその生徒たちとも数度の邂逅があったのだが、彼女の納得を得るだけの戦いはできていない。

「儚さの象徴とも言うのだがね。あの豪剣を見てそんな言葉が浮かぶ事はないな。桜は桜でも山桜だろう、あれは」
「春の山に差す一色、孤高の薄紅ですか。私とは違いますね」
「そうかな。君も孤高の印象があるのだけど。姉妹共々ね」
「ああ見えて姉様は社交的ですし、キゥイに関してその印象は疑問がありますね。スタンドプレーが目立つ子ですが、大変な社交家ですよ」

隣で話を続けていたアーモンドが少し苦笑いをする。
キゥイの悪戯な笑顔が思い出されてこちらもつられて苦笑いを。
今頃クシャミでもしている頃だろうか。

「…私も友達が少ないわけではありませんし。先生はアーモンドの花をご覧になったことは?」

微笑んで言うアーモンドに、少々申し訳ない気分で首を横に振って見せる。すると眉尻が下がった笑顔でこんな返事が。

「実は私も直に見たことはないんです。ラボのドクターに写真を貰ったんですが」
「たしかシチリアの出身だったかな。あそこにはアーモンドの畑があると聞いたことがある」
「流石先生ですね、その畑の写真です」

アーモンドが手のひらをすっと差し出すと、空間に写真が浮かんだ。花が大きいが、林檎畑よりは桜並木に似た景色が広がっている。

「これはすごい」

まずその一言しか出なかった。実の印象が先行していただけに、今目にしている景色に似たその風景から、様々なことが連想させられた。どうして彼女がその名を持つに至ったのか…あたりも、少々合点が行ったように思えた。しかし。

「先生。この桜も、アーモンドの花も、儚いものでしょうか?」
「えっ?」

早合点で悦に入っていた頭をひっくり返される一言。
少なくとも私の受け持ち生徒の中では、その言葉に近い位置にある存在感を感じていたのだが。幸い、彼女は怒るでもなく微笑んだまま続ける。

「花は理由もなく咲かないものです。私はこの空間を支配してしまうほどの桜という『力』に、名を同じくする彼女と等しい印象を覚えます。…次の世代を切り拓いた力。そのものです」

たしかに。
葉を出す前にまず花を咲かせ、新しい時の目覚めを促す。それが桜というものの本質かもしれない。花を落としてもすぐさま若葉が新緑の眩しさで木を覆う。終わりではなく、始まりだ。

「君も同じという事なのかな」
「さあ…どうでしょうか。私だけの話ではないかもしれませんよ?」

ふと『シチリアでマフィアの話をしてはいけない』という逸話を思い出した。今隣で話をしている誰かが、マフィアでないという保証があるのかい?という会話で終わる話なのだが。生徒をマフィアに喩えるのはいくらなんでも不謹慎が過ぎるか。

「少なくとも、私の生徒からは目を離さないように努力はしているのだけどね」
「先生は目がたくさん必要で大変ですね」

アーモンドがくすくすと笑う。笑顔のまま瞳を向けて。

「一人を注視する時間だって、大事だと思います。誰だって一番美しく咲く時を、一番見てほしい人に見逃してほしくないじゃないですか。それに…」

少しだけ首を傾けて、わざと目を逸らして続ける。

「余所見は危ないですよ?あの『プリンセス(発音はプリメラ)』さんたちでさえ、感情の抑制ができているとは言い難いのですから」

少しひやりとする。生徒が成長するほどその危うさに戸惑うことがある。長期間同じ編成でチームを組み続けるのが難しいだけに、感情の爆発を受け止めることになる事も少なくはない。しかしそれは教師として避けて通れない事だと思っていた。

そういう個人的な納得に、ヒビが入った気がして。
とはいえ、私の中にだって揺るがないものはある。

「不平等の残酷は心得ているつもりだけれども、それはチームリーダーを決めることで理解を促しているつもりなんだが…居心地悪いかね?そのポジションは」
「いいえ。仲間に失望されても、この場所は私のプライドです。それに納得できてこそ大人というものだと」

いつもの笑みがない真剣な表情。そのまっすぐな瞳に、自分の選択の正しさを確信する。

「なら良かった。私だって思い込みで先走っていないか心配になることはあるからね」
「それでいいんじゃないでしょうか、先生は。でも、まだ、とりあえず私には、あまり大人を期待しないでください」

眉をひそめつつ笑顔を浮かべるアーモンド。
アンドロイドという立場との距離感を計るのは難しい。しかし、適切な距離感を知るのは難しくない。素直に彼女たちの言葉に耳を傾ければいいのだから。

「すみません、お散歩のつもりが難しい話に…」
「構わないさ。折角だから食事でもどうかな」
「それなら、お口に合うかわかりませんが…」

アーモンドがランチの入ったバスケットを照れながら差し出す。
嬉しい申し出だ。何の疑問もなくお礼の言葉が口をついて、その数秒後。

「…アーモンド、手ぶらだと思っていたのだけど」
「えっ?ずっと後ろに持っていましたよ?」

ベンチに腰掛けてパンを切る時に、まるで手品のようにスティレットナイフを取り出す姿と、その手捌きの鮮やかさに見惚れた。

しかし同時に背筋も凍り、以降私のチームのリーダーがアーモンドから変わることはなかった。しかしまぁ、愛娘を見事なシチリア流に染め上げていたドクターには少々呆れた…が文句は言うまい。あらゆる長剣使いの生徒にコンペで勝利し、CQC担当教官にまで昇格する彼女を育てた功績を譲ってもらったのだから。

それはまた別の話として、今は「私の生徒にはとびきり料理上手な子がいる」という自慢話をいつ職員室で披露するかを考えよう。

追記:
この日の桜の絵は絵画展で大変な評価を得て、彼女の元には形あるなしを問わずまた名声が追加されたが、残念ながら料理上手については先生方自分の担当生徒を強力に押す人が多く、結局話題にはならなかった。

まあ、私だけわかっていれば十分なのである。

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