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2009年12月28日 (月)

人体だから物理法則を免れる、なんてことはない。

 人間ってなんかその存在を自ら特別視してるフシが長い歴史の中で常にあるわけですが、現実には主に水とタンパク質で構成される塊が化学反応を経て動いてるだけのもの、です。物理法則上はね。

 自動車乗る人には凄くわかりやすい話かもしれませんが、移動を伴う機械の経年劣化において、一番顕著なのは「直接ダメージを受けない筈の場所が地面からの衝撃や慣性、Gなどの要素でどこかしら壊れる」というものだと思います。例えば剛性が十分でない車のドアを開けたままジャッキアップすると、もうそれだけでドアが普通に閉まらなくなったりします。(危ないからやらないでね;)ジャッキポイントに車重が集中する、という理屈はおわかりかと思いますが、ジャッキポイントから遠いドアも閉まりにくくなることがよくあります。

 ジャッキアップはむしろ直接的な例ですが、峠やサーキットでタイヤ抜けちゃって(限界超えて滑っちゃって)、その後グリップが戻ることで「どこにもぶつからないのにものすごい衝撃」が発生することがあります。知人のカプチーノ乗りさんはそれでシビックのボディにシワ入っちゃって廃車にしたそうですし、競技車両の類が思いっきり攻めてる最中にタイヤでなく足回りのアームをやっちゃう、なんてこともしばしばです。緩いボディの車は普通に街中走っててもリヤハッチ閉じなくなったりしますし(閉じるにしても雨漏りしたりとか。クローズドトップの雨漏りはほとんどボディの変形が原因です)、よくある「アライメント調整」というのは脚周り全般が応力でどんどん本来の設定からずれていくので必要になるメンテナンスです。

 地面に接してるのはタイヤだけなわけですが、どうしてこうなるのか。もちろんおわかりかと思いますが、タイヤが受けた力はタイヤで完結していないわけです。(タイヤで全部済んでたらそもそもサスがいりませんよね(笑)。ゴムタイヤが作られた当初は全てをまかなう意図があったようなんですが、その頃の力はたかが知れてますから)アームなどを経てサス(ばね)に至り、普通はそこでも吸収しきれずボディに伝わって、さらにはステアリングやシートに来ることでそれらはドライバーズインフォメーションになっているわけです。走行のエネルギーは自動車全体、そして積載されているものにすべからくかかっている、と思って問題ないでしょう。自動車に限りません。

 そして、機械にも限らないわけです。

 本来の環境で育たなかった動物がよく人間で言う骨粗鬆症を起こして疲労骨折、なんて話はよくあります。食べ過ぎで重量的に厳しくなったペットが下半身を悪くする、という例は犬でよく聞く話です。(ダックスフンドとか脊柱が長いので、負荷がかかりやすいのです。結果としてヘルニアとなって、神経を損傷しそこから先が不随になる、という症例が大変多いでそうです…うちの子もリハビリの結果なんとか後ろ足で歩けるまで回復しましたが、一時は下肢不随でした)

 で、人間も動物ですから例外なくそういった負荷はかかります。直接的な損傷はもちろんですが、長時間をかけて疲労性の部位損傷をすることもあります。(循環器系…血管や心臓の病気はその傾向が強いように思います)そして、競技車両のアーム破損にあたるような、「特定の場所のダメージが組織・器官を伝わって他の場所に損傷を与える」という状況も発生します。「介達性外力」と医学用語では言うらしいのですが、衝撃を受けたのと全く別な場所のトラブルが出て、それに気づかないという危険がよく存在します。

 この話に至ったのにはちゃんと理由があります。先日の赤十字救急法救急員継続講習の時、三角巾を使った固定法の復習実習があったのですが、「何かやってみたいのありますか?」という指導員さんの言葉に、スキーのインストラクターをされているお二人が真っ先に「鎖骨骨折の固定を」と仰ったのです。
 結果的に傷病者が痛みを感じない状態に持って行ければ特に「正解」みたいなお作法はないとはいえ、従来からある方法が最も効率的であろうとは思うのですが、鎖骨固定は実は難しいです(笑)。通常、固定法には三角巾は1本を用いますが、鎖骨骨折時には2本を使います。しかも1本は布であるメリットを生かす包み込むような固定、もう一本はそうやって固定した骨折側の腕を胴体から離れないようにする固定、と、同じ三角巾でも使い方が全く異なるのです。

 救急法救急員の資格講座を受けた時は、「そんなに鎖骨骨折なんてあるのかなぁ;」なんて思っていたのですが、お二人はやたら手慣れた様子。「凄く慣れてますよね!」と私が言ったら「結構多いんですよ、もしかしたら直達骨折より多いかも」と。そこで指導員さんが説明して下さった言葉が「介達骨折」でした。

 直達骨折というのは、ぶつけた場所をそのまま損傷するタイプの骨折です。介達骨折は、上記の介達性外力によって発生する骨折です。インストラクターのお二人がおっしゃった鎖骨のケースは、転倒時に手をついてしまって(おそらくですが、うっかり掌底にまっすぐ力が入るようについてしまうんだと思います)、それで手や腕でなく、その先にある鎖骨に介達性外力が働いて骨折、というパターンです。

 転倒事故などは高齢者介護などの現場でも日常的にあるはずですが、接触部位と全く違う場所で痛みを生じた場合は介達骨折を疑うべきでしょう。血管損傷で内出血を起こし、外から見えない場所での出血で失血性ショックを起こす可能性もありますから、とても危険です。

 また、よく「あの時AEDがあったら…」と振り返られる案件に、野球ボールが胸に当たった少年が心震盪を起こし、そのまま心室細動に至って心停止で死亡、という事故があります。これも肋骨からの介達性外力による症例の一つです。他、介達性で致命的な症状には臓器損傷があります。接触事故などで一見打ち身を起こしただけのように見えてて数時間後に突然死、といったケースもあります。内臓破裂とか起こしてたりするわけですね;菅野美穂さんが出てた医療系のドラマでもやってたネタですが。

 頭にダメージが行くとすぐCTやMRIで脳挫傷確認はするのですが(そして傷病人の方に意識があった場合それを拒むことはあまりないです)、主に胴体ですね、おなかのあたり。前後を問いませんが、「打撲だから大丈夫」で済ませちゃう人が大半だと思います。打撲にしちゃ痛すぎる、と思った頃には手遅れだったりしますので;(なにせ時間は止まりませんから、ある状況に達した段階から急速にバイタル落ちることもままあります)強い打ち身で何か身体に違和感がある場合は油断せずにすぐ救急車を呼ぶべきだと思います。痛みが残っているならもう間違いなく危ないですし、外から見て肌の色に変化があったり、基礎的なバイタルサイン(脈拍や呼吸のペース)に変化があればそれは何かあるのだと思うべきでしょう。まわりの人も、本人が嫌がってもそういった兆候をちゃんと確認するべきです。年齢に関係ありません。

 痛みや不安は二次的に精神にもダメージを与えていくので、本人が助かる気でいられない状況になるとバイタルも回復しづらいという事実がある以上、そういったものには敏感になるべきだと思います。

 今年はわりとまともな冬で、転倒事故が(久々ということもあり)増えるかと思います。うっかり転倒した時は、介達性外力の恐怖を必ず思い出すようにして下さい。なんでもそうですが、処置は早いにこしたことないので。

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