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2008年11月 9日 (日)

「珍味」ハ「美味」ニ非ズ。

 まずいものを美味いと言い張り、高級食材を口にできぬ者が美食を口にするなと、「舌と価格の直結」を直接否定するフリをして間接肯定を続けた富裕層崇拝作品「美味しんぼ」。

 その初期エピソードに「フォアグラを口にしてアンキモのが美味い」とするものがありました。作品の方向性というか、以後の食材の扱い方のテンプレになった話です。

 主人公山岡士郎の人格破綻っぷり通り越して電波っぷりは凄まじいものがありますが(そして父親はツンデレ)、その最初の案件だったのがタイトルの話題です。

 フォアグラは世界三大珍味。この言葉自体実は非常にうさんくさいものなようですが、とりあえずそういうことになっています。ただ、珍味は珍味。広辞苑によれば「珍しい、味のよい食物」とありますが、その「味のよい」の度合いは美味より劣ると思われます。だって、日本において珍味って一般的に何を刺します?酒のつまみの保存食でしょう(笑)。

 で、フォアグラがうまいうまいともてはやす。それを「ガチで美味」である新鮮なアンコウの肝持ってきて押しつぶす。あれは主人公が優れてるんでもなんでもなく、単にフォアグラ褒めてた連中が拝金主義で高価い物が美味いと思っている相当な世間知らずのお馬鹿さんだっただけで、そもそもアンキモの優位性を示す物ではありませんでした。

 フォアグラというのは鴨レバーなわけですが、地上動物のレバーというのは一様にクセがあります。それは焼き肉でちょっと火を通しすぎちゃった牛や豚のレバーと同じ(ほんと、全く同じ)クセで、なるべく生で食べることで確かに美味しいなぁと思える類のものです。しかしフォアグラを生で食べる食文化はないようで、既にこの時点でレバ刺の方がずっとまともな食い物です。(なにせフォアグラは保存食化した脂肪肝を喰うわけだから)

 対して、魚類の肝臓というのは、加熱調理しても全くクセが出ません。アンコウに限らず、底物と呼ばれる魚(ドンコやタラなど)の大型の物の肝は、鍋物やアラ汁などの具材になったとき非常に優れた食味を示します。「アンコウはまだ普通なほう」とする人もいるくらいです。カワハギなどはわざわざ肝を別に取り出して、刺身を食べる時そのまま味わうか醤油に溶くか選べるようにして出したりします。

 とりあえずこの対比はそもそも今年流行の出来レース;です。
 マンガだからいいのですが、刷り込みでいろいろ鵜呑みにさせるきっかけになった=まんがの域を逸脱する社会的影響を与えるに至ってしまった作品にしては、あまりにもお粗末な内容でした。

 

 そして三大珍味、他にキャビアとトリュフがありますが、こちらはさらにわかりやすいかと。キャビアは製法上日本においては筋子に近いです。魚卵加工の方法のうち塩蔵というのは鮮度を保てない時代の妥協の産物(毒抜きである場合もある)で、同じサケの卵をして「醤油漬けと筋子どっちが好き?」と言われたら普通は一般的にイクラと言われる「はらこ」の醤油漬けの方を選ぶでしょう。季節を選ぶとはいえこれほど美味なものが手に入るところわざわざ高価で食味に劣るものをもてはやすのは、やはり拝金主義の賜物です。

 トリュフはある意味正しく珍味という言葉に相応しいのかもしれません。香りを主題とする食材という意味では松茸に似たものがありますが、レベルがだいぶ違います。強烈すぎるのです。細かく刻んだりスライスして用いますが、単体で食するものではありません。薬味に近いものだと思います。そのまま頂くこともある松茸と比べても単体の個性は弱く、そして松茸ともども食べて美味しいと明確に言えるようなものでは決してありません。

 そんなわけで「美味」と「珍味」を混同するなかれ、というのはおおいに言いたいところであるし、希少性や価格が味覚に直結しているような「資本主義の豚」みたいなのはちと勘弁というか、自分顧みろとしか言いようがないです。トリュフは牝の豚が好む性フェロモンに極めて近い成分を発する故にトリュフ探しには牝豚が使われるのだそうですが…まあ豚には豚のプライドあるでしょうからこれ以上の言及は避けます。

 

 エセ美食マンガの話に戻りますが、化学調味料のエピソードで「自然調味料より化学調味料を使ったものが美味かったと判断した人間を糾弾する主人公」という展開がありましたが、あれほど馬鹿げた話はありません。食の安全という観点でそうしたのであれば化学調味料が今更危険という認識がそもそも古いですし、自然食品・食材の方が栽培・製造状況次第ではずっと危険です。化学調味料であれば人為的ミスが発生しない限り危険はないわけですから。食品衛生法ナメてんですか原作者。
 そして、「多数決で客観的に美味であると決したという事実」を「由来や製法で覆す」のはそもそも味覚という感覚に対する重大な冒涜です。プロセスがどうあれおいしいものはおいしい。それが全て。安全食の話をするなら、自然食優先で食べて大変なリスクを負ってるレシピも多数あの作品にはあったわけで、感受性を否定する演出はあの手の作品ではしてはいけないのだと気づけなかった原作者は日本の食文化においては「戦犯」であると思います。

 しかし「古い製法の方がまともなものはできる」というのを訴求したのは正しく、一部の話については全くうなづく他ないものもあります。なので、かの作品の全否定は流石にしません。豆腐と牛乳については正しい価値を植え付けるきっかけだったのではと思うのですが、残念ながら某巨大掲示板と同じで、宝石のように価値のある状況も汚泥さながらの情報にまみれると発見は不可能になりそのまま消えゆくのが普通です。

 男前豆腐店の豆腐で「おいしい」と思える人は幸せです、もっと美味い豆腐ありますから。あれは私は「大量生産品にしてはちょっと頑張ったかな、程度」だと思ってます。で、牛乳は殺菌温度に関係なく瓶詰めが基本です。

 

 だいぶ横道でしたが、世間的な価値観が歪みに歪んでるとこ、せめて言葉を正しく使って「惑わされずに自分を生きる」のが大事だよなぁと、「珍味」と「美味」という2つの言葉には思わされます。

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