かばん考モード
ビジネススタイルに無縁な生活を送る私は、ブリーフケースを無理に持つ必要もなく(まあトラッドスタイルの革製のハンドバッグくらい勿論持っているけど)、多少装備品はあるけれども、闇雲に広い気室があっても荷物が混ざるばかりで、普通に売られているかばんにはだいぶ不満があった。旅行に行くためのトランクならまだしも、ただ街を歩くだけなのに何故バックパックなの、山に登るわけでもあるまいし(と、ミレーあたりを愛用してる人をつついてみるw)などと常々思っていた。たまにワンショルダーなどの程好い気室を持つバッグを頂いたり買ったりしたかと思えば、耐久力不足であっさり肩の付け根が裂けるなんてことは日常茶飯事で、頑丈なカバンが欲しいなぁと思うものの、国産だと例えばエース社あたりのものを狙ってみると目玉が飛び出る。
オークションで落としたXBOXのワンショルダー(ハーネスに携帯のケースがついているスグレモノ)が結構お気に入りだったのだが、ある日かにさんことなかた先生からお誘いを受け、ミリタリー系のかばんの現状を知る。こんな感じで。詳しくは先方を見て頂きたいが、米軍の装備というのは最近なんでもそうだが、「共通のシステムを構築して相互に運用できるようにする」という極めて合理的な作りになっている。銃器類で言うところのレイル・システム(銃にマウントレールを付け、そこに上部ならスコープ等の光学系をマウントしたり、側面・下部ならライトをマウントしたり、下部ならグリップをマウントしたりすることで、銃の性能を自分好みにシステムアップできる)のように、ラゲッジ類をトータルに管理しようというのがPALS及びその関係装備だ。ようは親亀の上に小亀びっしりとかがその運用用途に応じてできるようになっている、というアイディアである。作戦内容により装備が変わるのは当然だが、その都度中身を入れ替えるのでなく、メインのかばんに装備するポーチ自体を中身ごとまるまる取り替えることができるだけでなく、PALSさえあれば豊富にある互換品の中から自分の好きな組み合わせでかばんを仕上げることができる。大したものだと思った。思ったのだが私はなかた先生の欲するところであるA3のような「普通のバックパック」をはじめとする軍装品には全く興味が湧かなかった。その理由は後述するが、米国のとあるウェブショップで商品を眺める中、たった一社、確実に胸に突き刺さった会社があった。それがMaxpedition社である。特に同社の看板製品であるVersipackと呼ばれるシリーズの、JUMBOと呼ばれるモデルに一目惚れした。
JUMBOのどこいらへんが良かったか。まず、バックパックでも、ウエストバッグでもなかったこと。形容するならタクティカルベストの前側右半分あたりという感じ。体に密着する設計になっており、広いハーネスは頑丈そうで荷重で裂けるなんてみっともなさは微塵も感じられず、また密着するので重量の分散が期待できた。また、前に装備するものなので、装備が視覚に完全に収まりアクセスが容易な上、後ろを気にしなくていい。これだけの特徴が一目で伝わるデザインな上、同社のポーチと組み合わせた場合のデザインのまとまりがすこぶる良かった。カジュアル系のスポーツバッグにも希に機能性を見た目で訴えかける優れたデザインのものがあるが、これはその本物も本物、という雰囲気なところが良かった。本体にある収納の分割数やその広さも十分に要求を満たしてくれるもので、もう出先で薬をかばんの中から探すのにえらい苦労をすることも、使いたい時にLEDライトが出てこなくて困ることもない。全て予定されていたかのように狙った場所に収まる。主気室も思いのほか広く、普段持ち歩くものが全て収まる。その上で、(本来は拳銃やナイフ等を収納する部分だが)ファスナー一発でアクセスできる大きな気室(スリップコンパートメントと言う)も備える。その上で、新世代の汎用水筒として広くスポーツの世界でも普及しつつある(無論官用でも)米国Nalgene社の32oz/1L水筒がとても綺麗に収まる上、そのポケットにはよくある500mlのペットボトルもきれいに収まるのだ。想像の範囲で既に完全に要求を満たすものだった。何より、「そういうカバンを持ち歩いている奴を見たことがない」のが良かった。そして、過剰に軍用装備的な主張をしていない。組み合わせて使っているのはこれまた非常によくできた品であるMega Rollypoly。雑誌サイズのものが結構な量入る巻き取り式のポーチで、畳んだ状態では非常に小さく、展開しても真正面に来るためバランス的に体を圧迫しない。この組み合わせが非常に気に入り、Nalgeneのセージグリーンのボトルとともに注文した。
軍事用に見えないもの、という発想から一見逸脱するかもしれないが、色はオリーブドラブグリーンを選択した。他に黒とデザートタンがあったが、黒は逆に実戦的に見えてしまい冗談通じない警官に職質を食らうという大変不本意な状況を招きそうだったのと、事務的でつまらないという観点から避けた。デザートタンも悪くなかったが、カジュアルより少し落ち着いた印象になるのと、ブランド脳汚染されたトンチキ坊やに「吉田カバンのパチモン」とか言われると非常に心外だと思ったので(笑)これもやめた。少し遊び心のあるカジュアルカラーということでODグリーンを選んだが、正解だったように思う。日が射しても熱くならないし、抑えた色の服装と合わせても浮き上がらない。有彩色の服装との組み合わせにも案外映える。本来カモフラージュカラーなのだが、デニムの紺などとも相性がいい。
ところで、Maxpedition社は中国法人でMagforceという別ブランドを持つ。PALSウェブの装備や細かいところの改善などが1世代遅れているが値段は安く、日本で輸入されているのはこちらのブランドだ。全くオススメはしない。もとの値段が安いとはいえ結局個人輸入した場合のコストと等価程度で一世代前の性能のものを買わされる羽目になるというのもあるが、何より社名が少々下品というか子供っぽく感じる。折角の機能性が「ごっこ遊びの延長」のようになる台無し感があるので、多少の苦労を顧みずMaxpedition社の製品を購入することをお勧めする。
Maxpedition社は他にも優れたカバンを作っており、私はあまり好きではないがバックパックの類もある。そして、Versipackの類もさまざまな種類がある。脱着式ハーネスのデザインがいまひとつ好きになれない、かつ耐久性に疑問があるので、幅広のベルトとスリップコンパートメントを備えたVersipackで、肩だけでなく腰にも装備できるThermiteというモデルの買い足しを目下検討中だ。ウエストのベルトループが追加されるため、ポーチもさらに追加装備できるようになる。こういったシステム構築を同ブランド内でやった場合映えるのが、この会社のいいところだと思う。逆に言うと、他所の(軍用という意味で)本気モードの商品と組み合わせた場合、ナリが良すぎて相互に映えなくなるという欠点もあるのだが。少なくとも現状、日本の各ブランドを選ぶよりも先鋭的でいいチョイスだと思う。ウエストポーチ類も普通に装備してるとなんだか野暮ったいものが多いなか、この会社のものはカジュアル性ないしインテリジェンスと機能性を同時に見せ付けてくれる。
「そういえば、こういう事を以前にも思ったことがあったな」と思ったが、思い出した。
日本で流行りだす前のSurefire(言わずもがなタクティカルライトの雄)を、日本語が通じる米国の業者から初めて買った時と、同じ店で今や高性能ナイフのド定番となったCOLDSTEELのナイフを買った時の感じに似ている。
今後、じわじわとブレイクしていくのではないかと思う。もちろん代理店に法外な値段をふっかけられつつ、だろうけれども。
余談だが、PALSウェブのコンセプトは日本ではエースがいち早く取り入れた。東急ハンズなどで当該製品の取扱いがある。しかし、やはり目玉が飛び出るほど高い。トピックとしては、少し艶のあるいい質感の紺色に裏打ちとステッチで赤を合わせるという趣味のいいカラーリングがあるが、残念ながらそこに組み合わせるPALSのアイテムが今のところ同社製品以外は前述の黒・緑・タンの他にウッドランドカモ(いわゆる日本でよく見る迷彩)やデザートカモ(砂漠迷彩)などしかない。どれもあの優れたカラーリングにはマッチしない。惜しいところである。しかしまぁさまざまな色が増えてもとりあえずバックパックは買わないので、現状あまり関係ないのだが。
何故バックパックを好まないかというと、後ろに目がついてないからである。冗談でもなんでもない。一応まともな心の持ち主なので、人にぶつかった場合とりあえず「すみません」が口をつく私は、バックパックを装備すると都会を歩けないことがわかった。都会人はバックパックを障害物として払いのけて歩くし、その状況でも私の口はうっかり滑って「すみません」と声を発してしまうからだ。非常に馬鹿馬鹿しい。無礼者にかける侘びの言葉など本来ないのに。で、JUMBOを装備してからそれがなくなった。大変な功績である。MAXPEDITION社を褒める理由の最たる部分かもしれない(笑)。あと、背中が空いているということは、いつでも背もたれのある席に座れるということである。コンディション次第で立ち居が大変辛い私には座席確保は重要なことであるし、緊急時にはJUMBOを外さずにシートベルトをかけて車を運転することすら実は可能である。
そんな感じでMaxpedition社の配慮とデザイン性に満ちた商品群は一見の価値があるし、おおいにオススメできる。汗で塩がのっちゃっても一拭きできれいさっぱりのテフロンコート、頑丈な繊維・縫製と、日本のメーカーが出したらいくらするんだかという作りの良さがありながら、価格は常識の範囲内だ。そしてVersipackシリーズの先見性は大したものだと思う。
どうでもいいことだが、旅行かばんには私はワインレッドにタンのアクセントカラーが入った豚革のレトロ調トランクを使っている。先端技術とレトロモダンのミスマッチが少々面白く、割と気に入っている。
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コメント
A3は「行軍」には素晴らしくいいです。10kg単位の荷物を背負って、あまり積み下ろしはせずにひたすらテクテクという状況ですね。上に延びないのは伏せ撃ちのときに頭が当たらないためだとか。しかし現実には、人間年中携帯だのペットボトルだのぴっちだの筆記用具だのひっぱりだしてるもんなんですね。
どうせ流行るなら流行るのがMagforceになってくれればなー。その源流をちゃんと握ってたんだよと胸貼りたいもんです。
投稿: なかた | 2006年5月17日 (水) 00時29分
相手との距離が前後2~3mあるのが前提の装備ですよね。いや、A3に限らず、登山バッグもそうだと思います。あまり街中で装備するのは感心しないです。ちょっとバックパックは考え物ですね。ランドセルで育った日本人である我々は、このへんに随分無頓着というか、そもそも疑問すら感じていないのが残念なところです。
(ランドセルも、後ろから引っ張られたら重量バランス的にも取っ手としてもアウトなわけで、正直防犯上よくない気がものすごくするんですが、そこに疑問を抱く父兄いませんよねぇ)
可能な範囲で装備は前方にした方がいいと気づいたのも、JUMBOの美点でありました。
投稿: ぬまにゃん | 2006年5月19日 (金) 00時46分